「好きだよ。愛してる。」


 今まで何回ささやいた?

 今まで何回君の声でこの言葉をきいた?

 いつも言うのは俺。

 君はいつも「ありがとう。」しか言わないんだ。

 ……ねえ。俺のこと、本当に愛してる?

 ………好きでいてくれているの?



 男だって…愛してるって言われないと不安になるんだよ……



































 青学テニス部は校内でも盛んな部活のひとつだ。

 過去によい成績を上げている。

 ……だから、部活動終了時間も他の部活に比べて随分と遅い。


 今もすでに日が落ち、空には星が輝いている時刻だ。









 「ほんっと待たせちゃってごめん!」


 校門前で待っている少女に走りよって、手を合わせて謝っているのはテニス部の菊丸英二。

 少女は微笑んでいた。


 「テニス部は忙しいもの。テニスをしている菊丸君の姿、かっこいいし、待ってても苦にならないよ。」


 さ、帰ろう。

 そういって歩き出す。

 さりげなく菊丸が少女の手を握る。


 「……うわっ…ちゃんの手、冷たいし。」


 「そう?菊丸君の手が温かいだけよ。」


 「…そうかな〜…」


 「そうよ。」


 そんな会話をしながら歩く。








































 私の家の前まで来てしまう。

 あなたといる時間は楽しいから、すぐに過ぎてしまう。

 もっと一緒にいたいけど、私のわがままで彼をひきとめるのはいや。

 だから、すぐにまた明日、って言うの。




 「ん〜…学校からの家が近すぎるんだにゃぁ…」


 名残惜しそうにしゃべるあなたの姿。

 いつ見たってかっこいい。


 「また明日ね、菊丸君。」


 「…にゃぁ……わかった。じゃあまた明日。」


 「ばいばい。」


 …名残惜しげに私を抱きしめて……でも私は抱きしめ返さないのだけれど…彼は私にささやく。


 「愛してるよ、。」


 …って。

 愛してる…そんな言葉で何がわかるの?

 あなたの気持ち、一言で表せるほど簡単なものなの?

 ……そんな風に思ってしまう。

 だから、私は返事をしない。


 その代わり…


 「ありがとう。」


 ってかえす。


 あなたは少し寂しそうな顔をして、でも大きく手を振りながら走り去るんだ。

 あなたが見えなくなるまで、私は手を振り続けるの。




















 そして毎日私の家の前で待っていてくれる……


































 『今日は用事があるから、先に登校してくださいにゃ。」















 ……今日は違ったみたい。

 先に登校して、のメールが届いた。しょうがないわね。彼は忙しいもの。

 久しぶりに私は一人で登校することになった。
























 一人で歩く道のりが、こんなに長かったのかと…そう思ってしまう少し寂しい登校だった。

 いつもなら隣で笑わせてくれる菊丸君がいるのに。

 愛しい人。

 だけど、いない。

 当たり前のように思っていたけれど、少し寂しいわ。


































 教室に入ったら、親友が少しためらいがちに話しかけてきた。


 「おはよ、。菊丸君とけんかでもしたの?」


 「え?何で?菊丸君、用事があるから先行っててって私にメールくれたのよ?」


 「でも……」


 何か、意味ありげに彼女は私を彼の教室へと連れて行った。



 「ほら。」


 「あ……」



 見たのは菊丸君と話す女の子の姿。

 私の前でも滅多に見せない笑顔を、その子の前で見せている菊丸君。

 用事があるから…なんていわないで、嫌いになったから、ってちゃんと言ってくれればいいのに。

 胸が締め付けられる思いがした。



 「…ちょっと、!」


 逃げ去るようにその場を後にした。
















 「…さん、今日は元気ないね。どうかしたの?」


 …放課後、テニス部の不二君と会った。

 部活に行く途中らしい。手にはラケットと、レギュラーだけが着られるというジャージ。

 ……菊丸君がよく見せてくれるやつ。


 「…そう?私はいつも元気いっぱいよ。」


 笑顔でそう返したけど…


 「元気ないでしょ?何か悩み事でもあるんじゃない?」


 って、心を見透かされてしまった。


 「僕でよかったら相談にのるよ?」

































 
 今日はが一度も口を利いてくれなかった。

 ただでさえクラスが離れてるって言うのに、お昼も一緒に食べてくれなかった。

 今だって、部活見学してかない?って誘おうと思ったら、不二と仲良さげに話してるし。

 俺…嫌われた?


































 いつもはが先に待っていてくれる。

 でも今日は校門の前にはいなかった。

 もう帰ってしまったのかと下駄箱を確認したけれど、 って書かれた下駄箱にはきちんとが履いている靴が入っていた。



 一人で待っているのがこんなにさびしくて寒いとは思ってもいなかった。

 いつも俺はにつらい思いをさせていた。だけどは笑って俺を迎えてくれた。

 …怒ったのかもしれない。

 俺のおちゃらけた態度に。だから口を利いてくれなかったり、不二としゃべっていたりしたのかもしれない。

 不安で胸がいっぱいだった。































 「それじゃ、さん、また明日ね。」


 「ええ。今日はありがとう、不二君。」












 しばらくしたらが出てきた。不二と一緒に。

 笑顔で。

 すっごくむかついた。







 「!」


 気がついたら怒鳴ってた。


 「…菊丸君……」


 はおびえてた。


 「…なんで…不二と一緒にいるのさ?!俺のこと嫌いになったんならはっきり言ってよ。こうやって回りくどいことしなくたっていいじゃないか!」



 …は驚いてた。


 「……私…菊丸君のこと、嫌いになったりしてないよ。」


 「そんなの嘘だよ!じゃあどうして俺に愛してるって言ってくれないのさ。好きって言ってくれないのさ。俺はのこと好きなのに…は俺が……」


 のため息が聞こえた。


 「愛してるとか、好きって言葉を言わないと、私はあなたのことが嫌いってことになるの?」


 え?

 だってそりゃ…


 「そんな一言で表せるほど簡単にあなたのことを思ってるわけじゃないわ。本当に好きだから、愛してるから、一言じゃ表せない。だから言わないの。」


 …………


 「私よりもほかの女の子と一緒にいたほうが楽しいのでしょう?菊丸君こそ、回りくどいことしないでほしいわ…」


 泣きそうな顔だった。

 …ああ、全部俺の誤解だったのか。

 ああ、全部俺のせいだったのか。

 今日口を利いてくれなかったのも。一緒にご飯を食べてくれなかったのも。不二と仲良さげに話をしていたのも…全部。

 俺がを苦しめていたのか…


 「…ごめん……なかないで、。俺…勘違いしてた。」


 「……」


 「は俺のこと嫌いなのかと思ってた。だって一度も言ってくれないから。……たまには言ってくれないと…俺は不安になるんだよ……」


 「…」


 ちょっとためらって…の口が動いた。



 「…愛してる、英二。」


 思わずぎゅっと抱きしめてしまった。


 「…許してくれるかにゃ?」


 「当たり前じゃない。」










 軽く触れるだけのキスをした。

 ごめんなさい、と。

 愛してくれてありがとう、と。

 そう伝えるように。






























































 「…じゃあ、そんなこと相談してたの?」


 「だって一度も言ってくれないから心配になっちゃって……」


 「やだ…嫌われたのかと思って本気で悩んで、不二君に相談したのに……」


 「だって…」


 「もう絶対言ってあげないわ。」


 「!!な、ごめんなさいにゃ、〜…お願い。言って。言ってよ。」


 「……気が向いたらね。」


 「にゃ〜〜〜……」





















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 愛してる、好き、って言葉が嫌いなのは管理人です(爆)
 だって、一言で自分の気持ちがあらわせるなんて思えない(爆)
 もっと、複雑な気がするの。人間の気持ちって。










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