不動峰のテニス部に、マネージャーができた。

 …と、言うよりも、ほぼマネージャーに近い仕事をやってくれる人が来た。

 最初は橘さんの妹の杏ちゃんと一緒に部活をのぞきにくる程度だったんだけど…

 そのうち、部室の掃除や飲み物の準備やタオルの洗濯…いろいろやってくれるようになった。

 あんまりしゃべらないから冷たい印象を持つけれど、まじめにそういうことやってくれて、部員一同感謝してる。



 でも、クラスが違うから、部活以外で見かけることなんてあんまりなかったんだけど……










 「ねえ、さん、俺と付き合ってよ。」


 校庭の桜の木の下でお昼休みに…

 告白されてる彼女を見つけた。別にみようと思ったわけじゃないんだけどね。たまたま通りかかったら…見えたって言うか…


 「…悪いんだけど、知らない人と付き合う気はないの。」


 ……


 「じゃあ、これから知り合ってけばいいじゃん。」


 「…嫌。」


 「…見た目かわいいからってお高く留まってんじゃねーぞ、こら。


 「……見た目で私のこと好きになった人と付き合うなんてごめんだわ。話はそれだけ?それじゃあね。」


 ひらひらと手を振って、呆然と立ち尽くす人(三年生らしいけど…)の前から去っていった。





 …なんか、かっこよかった。


































 「ねえ…」


 放課後、部活のときに話しかけてみた。

 普段、用があるときしか話をしないから、少し勇気のいる行動だった。


 「今日の昼休み、告白されてなかった?」


 「…見てたの?」


 「通りかかったら見えた。」


 「あら、そう。」


 困ったなぁ…俺、人と話すの苦手だから会話が止まる。彼女だってよくしゃべるほうじゃないから…

 空気は気まずかった。

 なんか、どよ〜んとした感じがして、俺たちの周りだけほかの場所と違う感じがした。











 「なに、やってんの、二人とも。」


 そこに神尾が現れた。

 普通は話しかけにくい空間に簡単に入ってくる神尾。……場の空気が読めないのか、それともわかっていて話しかけてきたのか…

 まあ、神尾の場合、前者であることは確実だったけど。



 「なんにも。」


 「…何にもって、さん冷たいなぁ…」


 そういっておきながら笑顔だ。


 「…神尾君、橘君が呼んでるわよ?」


 …別に呼んでないのに…

 神尾は正直だから、え?!ほんと?とか言いながら石田と話してる橘さんの方にかけていってしまった。



 「…で、告白されている私を見た感想は?」


 「別に。ああ、少しかっこいいかなって思った。」


 「ふうん。」


 また会話がとまった。

 こういう気まずい空気って慣れてるはずなのに、なんかすごいいやだった。


 「別にあの先輩見た目が悪かったわけじゃないし、何がいやだったの?」


 「…伊武君って、そういうことに興味があったのね。」


 「…別に興味はないけど…すごいふりかただったでしょ。なんていうか、ああ、あんなこと言われたら傷つくよなぁ…って感じの。」


 「…そう?…別に興味なかったもの。知らない人に告白されてもうれしくないわ。」


 「ふうん。じゃあ、さんは好きな人居ないんだ。」


 なかなか、会話が続いたなって思った。


 「…今日はよくしゃべるのね、伊武君。……好きな人はいるのよ。でも、その人は鈍感だから気づかないの。」


 その人も私もあんまりしゃべらない人だからね…と、彼女は付け加えた。


 「ふうん。」


 それからしばらく沈黙があって…

 橘さんが練習を再開するって言ったから、それ以上話をすることはできなかった。



































 マネージャーっていうのはすごく大変なんだなって…最近気がついた。

 なんとなく、さんが何もいわずにやるから当たり前のように思っていたけれど…

 今日は教室に荷物を忘れるなんて馬鹿なことをしたせいで下校するのがいつもより遅れた。

 神尾は先に帰っちゃってさ。そういうところ、本当に友達なのかって思っちゃうよ。


 それで、部室のほうを見たら、まだ電気がついてた。

 俺たちが着替え終わってから、さんが制服に着替えるのは知ってたから、俺たちいつも先に下校しちゃうんだけど…

 それにしたってもう、みんなが下校してから随分時間がたってるって言うのに…何やってるんだろう…


 もう暗くなっちゃってるし、寒いし。




 なんとなく校門前で待ってたら、それから三十分くらい経ってからさんが出てきた。


 「…伊武君、誰か待ってるの?」


 「別に。…部室がまだ明るかったからさん何してるのかなって思って。」


 「別に片づけしてただけよ。」


 それしか会話してないのに、なんとなく一緒に帰ることになってた。気がついたら一緒に歩いてた。











 「…なんだ、さんの家って俺の家の近くじゃん。」


 「伊武君の家ってこっちの方向だったのね。」


 なんとなく一緒に居た。

 もう暗いし、男としては女の子を送ってかなくちゃならないよな〜とか、考えた。



 「…伊武君、好きな人いないの?」


 唐突に彼女が聞いてきて驚いた。


 「……さあ。」


 「…そう。」


 「何でそんなこと聞くのさ。」


 「…私に同じこと聞いてきたからよ。」






 「……いるよ。」


 ふぅん…って、彼女は言っただけだった。それからしばらく無言で歩いて。


 「じゃあ、その好きな子と一緒に居られるといいわね。こうやって私と歩いてたらそのこに失礼ね…」


 とか、つぶやいてた。


 「…別に失礼じゃないと思う。」


 「どうして?」


 「……好きなやつ、今、俺の隣歩いてる。



 ぴたっ。

 さんが歩くのを突然やめた。

 俺もやめた。

 自分が何を言ったのかなんて自覚してなかったけど、なんとなく彼女の顔が紅くなってるように見えた。

 今までちかちかしていた歩道の電灯が、ぱっと明るくついた。


 一瞬、今日告白した三年生みたいにつめたい言葉であしらわれるのかなって思ったけど、そうじゃなかった。


 「…そう。それはよかった。」


 「ちゃんと返事してくれないの?」


 「……あなたが理解してるのに返事する必要があるの?」


 「俺、ちゃんと言ったんだから、聞かせてよ。」


 照れたさんの顔をはじめてみた気がした。


































 「…好きよ。」


































 その先、さんの家まで、手をつないで帰った。







































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 無口な主人公もいいかもしれませんね(笑)
 伊武とは一緒に居るだけでいいっていう恋かな…
 だって、伊武君あんまりしゃべらないから…(爆)
































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