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ついこの間、青学の三年生が美術の授業の一環として美術館を訪問した。
そしてちょうど同じ日に、氷帝の三年生もその美術館を訪れていた。
「はい、じゃあ、ここからは自由行動になります。先ほど説明した時間にこの場所に戻ってきてください。」
解散。
という声とともに、青学の制服を着た生徒たちが思い思いの友達と、思い思いの展示室へと向かっていた。
「手塚、一緒に回らないかい?」
なんとなくどの展示室から回ろうか考えていた手塚に声をかけたのは乾だった。
「…ああ。」
手には、学校で配られたパンフレットと、提出用のプリント、それに筆記用具。
青学の生徒がわらわらと進む中で、皆があまり興味を示さない展示室があった。
人ごみがあまり好きではない手塚は、乾とともにその展示室に入っていった。
『ルネサンス文化』
そう書かれたその展示室にいる生徒はまばらだった。
青学の生徒は手塚と乾だけで、中にいるのはほかの学校の制服を着た生徒たちだった。
手塚も、乾も、その制服には見覚えがあった。
「…氷帝?」
二人して顔を見合わせた。
これまで、氷帝と校外学習が重なることがなかったために驚いたのである。
さすがに美術館の中で堂々と大声で騒ぐやつはいないが、声が聞こえているのは事実である。
「How beautiful ! 」
「…英語で表現するな。」
「…おや…英語のほうが絵画にも感動が伝わりますよ。」
「……絵画にお前の感動が伝わるところをみてみてーよ。」
完璧すぎる英語の発音と、その後から聞こえてくる、けだるそうな日本語の会話。
手塚も乾も、その場にいるのが誰であるか瞬時に悟った。
うまく顔を合わせないようにして絵画を見学したが、
「手塚、こっちに珍しいものが。」
という、乾の声に振り返った手塚の目と、別の展示室に移動しようとした跡部の目が重なった。
一瞬の静寂。
「へぇ…まさかこんなところでお前に会うとはな…手塚。」
「…同感だ。」
…しんと静まり返った部屋に二人が対峙する。
なかなか普段味わえない雰囲気がその場にあった。
「…あいにく今日はお前をかまってるほど暇がないんでな。」
行くぞ、。
と、声をかけ、跡部はそのまま展示室を後にした。
だが…跡部の後ろについていくものはいない。
展示室を見回せば、自分と乾、そしてもう一人、氷帝の制服を着た少年がいるだけの寂しい空間になっていた。
おそらく、と呼ばれたのはその少年であろう。
「…久しぶりだね、君。」
「お久しぶりです。あの時はどうもすみませんでした。」
見たことがない顔だった。おそらくテニス部ではないだろう、と、手塚は推測した。
漆黒の髪に黒い瞳。でも、肌は雪のように白い。制服を着ていなかったら少女を見間違えてしまったであろう、その原因のひとつには華奢な体つきがあげられる。
乾と並んでいるのがあまりに不釣合いだった。
「…乾、知り合いか?」
なんとなく、自分だけが取り残された感じがしてしまい、思わず口を開いた。
「あ、ああ。部活で話題になったろう?新しくできたストリートテニス場の……」
ああ、と手塚がうなずいた。
ここ最近、部室ではその話題で持ちきりだった。天才テニスプレーヤー、。
一瞬手塚は疑った。
こんなに華奢な体つきの少年が本当にテニスができるのか、と。
「…初めして。です。」
日本人なら、挨拶をするときにぺこり、と頭を下げるのだろう。手塚も乾も挨拶をするときは頭を下げる。
だが、この少年は違った。
名前を名乗ると、握手を求めてきた。
ぎこちなく、手を伸ばして握り返す。
細い、繊細な指先だった。
テニスをしてできるようなマメの感触はどこにもない。
「…手塚国光だ。」
「ああ…。跡部景吾からよくお名前を伺います。」
ニコニコと微笑む少年の、笑顔がまぶしかった。
やはり日本人なのだろうか。日本語の発音も完璧だし、礼儀もわきまえている。
柔らかな雰囲気をかもし出すその少年に、手塚は少し戸惑った。
手塚からしてみれば少し苦手なタイプなのかもしれない。
「こら、。」
跡部の声がして、その後、が乾と手塚に向かって笑顔で手を振りながら展示室を後にするのを見た。
「不思議な子だろ?」
「ああ。テニス部じゃないのか?」
「そうみたいだ。練習に参加はしているらしいけど、正式な部員登録はしていないと本人が言っていたよ。」
なんとなく印象に残る不思議な少年だった…
同じ空間に存在しているのだから、また同じ展示室に入る可能性は大いにある。
だが、誰がその場で二人っきりになると予想しただろうか。
乾は何か興味をそそられる絵を見つけたらしく、その絵の前から一歩も動こうとしなかったので、手塚は乾をおいて一人で館内を見てまわることにした。
それでなんとなく入った展示室で、またあの少年を見つけた。
一度見ると忘れられないその姿。少年を見つけるのは容易かった。
「…あら、また会いましたね。こんにちは。」
笑顔が似合う少年だ、と、手塚は思った。
「跡部は一緒じゃないのか?」
「……見放されちゃいました。」
軽くそういって、展示室を見ていた。
そこは、『音楽の美』という展示室で、古くからの楽器やその楽器に伝わる歴史、伝説などの書物が展示されていた。
少年はハープをじっと見続けていた。
「…ハープに興味でも?」
「僕、ハープを奏でるんですよ。趣味なんですけどね。古代からある楽器ですから、昔の人と同じような雰囲気に浸れたらいいなぁって思いまして。」
どうりで指が繊細だったのか…
妙に納得した。
ハープを奏でる人…といえば、女性が頭に浮かぶが、この少年がハープを奏でる姿を想像するとなかなかしっくりきた。
そのうちに集合時間になって、青学に帰ることになったのだが、手塚の頭の中にはどの展示物よりも、氷帝の不思議な少年、の顔がはっきりと残っていた。
「え、なに、手塚、にあったの?」
「ああ。」
「いいなぁ…氷帝のやつらが来てるのは知ってたけど、俺、は見てないもんなぁ……」
「……」
「初めてだっけ?手塚、に会うの。」
「ああ。」
「きれいな子だと思わないかい?謎が多い子なんだけどね…」
「…そういえば、氷帝に通ってることは知ったけどそのほかのことはまったく知らないな……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
手塚との出会いは美術館で(爆)
ハープを弾かせたかったので、なんとなくこんな作品に。
跡部と手塚をもっと書いてもよかったなぁ…
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