「…なんですか?それ。」


 「その名のとおりだろ?交換部活生。」



 いつものとおりノックもせずに部屋に入ってきた跡部景吾。

 彼の開口一番の言葉に驚いた。



 「具体的に説明してください。」


 「各校で一人、テニス部員を一日交換しようって言う企画だ。」


 「へぇ…で、何で僕なんですか?僕テニス部員じゃない……」


 「…入部届けは受理されたぜ。」


 「……まさか…」


 「そういうことだ。」


 「…じゃあ、何で僕なんですか?僕じゃなくたっていいじゃないですか……」


 「こっちの部員の実力を相手に知られたら困るんだよ。その点お前だったら大丈夫だ。」


 なんだ、その笑いは。


 「どこの学校なんですか?」


 「…青学…だ。明日、行ってこい。相手の学校のほうにも連絡はいっている。授業も受けるらしい。」


 はぁ……


















































 結局、翌日の朝早く、いつものとおり車に乗せられた僕は、氷帝の制服のままで、青学へ。

 鞄の中にはいつもと違うノートとペン。用意周到な…

 青学からは乾君が来るらしいから、同じ、といえば同じなんでしょうけど。

 それにしたって、ほかの学校って言うのは緊張します。


 「お、いたいた。君だね、氷帝との交換部活生。」


 「あ、はい。よろしくお願いします。」


 「じゃあ、まずは職員室に。今日一日、君の担任をつとめる先生のところに案内しよう。」


 優しそうな学校のおじさんに連れられて、僕は職員室へ。

 担任の先生も微妙な人だった。別に、今日一日だけだからいいんですけどね。




























 とりあえず、三年生のとある教室。

 ガラガラって扉が開くと、今までざわざわしていた教室がシーンとなる。


 「ほら、席に着け。」


 先生の声でみんなが席に着く。まったく見たことのない生徒たち。

 いきなり先生の後に続いて入ってきた僕の姿に、みんな驚いた表情だ。そりゃそうだよね、氷帝の制服じゃあ……


 「ええっと…まず紹介だ。今日一日交換部活生という、なんだかよくわからない企画のために

 氷帝から来てくれた生徒だ。」


 「です。皆さん、よろしくお願いします。」


 ニコニコと、日本人はこういうとき頭を下げる習慣があるみたいだから、ぎこちなく少し頭を下げた。


 「ちなみにわが校からは乾貞治が氷帝に赴いているらしい。まあ、今日一日頼むよ。」


 席に案内される。後ろの席。

 氷帝の制服を着ているからなのか、それとも僕に興味があるのか、僕が歩くたびに生徒が僕のほうを見る。

 驚きというか、感激というか…なんともいえない表情で。

 氷帝に編入したときもおんなじような視線を受けたけれど、それ以上で驚く。むずかゆい。


 「じゃ、学活始めるぞ。」


 それまで僕に向けられていた視線が先生に移る。ああ、良かった。









































 そんな安心感もつかの間だった。

 授業までの休み時間にはわらわらと生徒が集まってくる。

 大半が女子。キャッキャッと騒ぎながら、まるで珍しいものでも見るかのように僕を眺める。

 動物園の動物になったような気持ちだ。


 「君、氷帝から来たの?」


 「乾君と交換ってことはテニス部なの?」


 「君って肌白いわねぇ…」


 「本当に男の子なの?」


 一つ一つの言葉に丁寧に返事をしていく。とりあえず、氷帝の制服を着ている以上、イメージを悪くしちゃいけない。


 「ええ、僕、氷帝出身なんです。」


 「はい。テニス部に所属していますよ。」


 「そうですか?」


 なんて。一人ひとりに返事をするのは思った以上に大変だ。

 よろしくね。なんて、笑顔で言われる。どうせ今日一日だけなのに。

 なかなか大変だ。

 作り笑いだけど、笑顔で挨拶を交わす。

 そんな一日。

 すごい疲れた。











































 やっと昼休みになったけれど、やっぱり群がる生徒たち。


 「君、一緒にお昼ご飯食べない?」


 「ねえ、一緒に食べようよ。」


 次から次にかかってくる声。

 笑顔で丁寧に返事をするんだ。

 とりあえず、親切に声をかけてくれている人たちをあしらうことなんてできないからね。

 こういうところの態度は、氷帝の生徒のほうが紳士的だと思う。

 この学校ではこうやって声をかけるのがいいのかもしれないけど…

 なんとなく、カルチャーショックを覚えますね…


 











 いやでたまらなくて、屋上にやってきた。

 教室移動の授業のときに、親切な生徒が屋上はここから行くんだ、と教えてくれたんだ。

 天気もいいし、人も少ない。

 なかなかいい場所だった。



 「あ〜!!だ!!」


 「…ってことは、氷帝から交換部活生でやってきたのはだったんだ。」


 お弁当、食べようかなぁと思ったら声をかけられた。最近聞いていなかった声。

 すごい懐かしい。

 不二君と菊丸君…かな。


 「なに、、一人でご飯食べるつもり?俺らと食べようよ。」


 「屋上なんて、テニス部員くらいしか使わないから、ほかの生徒の視線をうっとおしく思わなくていいよ?」


 そうですね…と、うなずいて彼らと食事をする。


 「あっれ〜…不二先輩に英二先輩、誰と食事してるんスか?俺も混ぜてくださいよ。……あ、…」


 「こんにちは。」 


 ツッパリみたいな頭の人…ええと、名前は……桃城君…だったかな?


 「へぇ…じゃあ、さんが交換部活生なんですか。うちからは確か乾先輩が行ってますね…」


 「そうそう。いつもの丸秘ノート持って行ってた……」


 「…乾も用意周到だからね…」


 「あっ!おチビだ。」


 次にきたのは背の小さな男の子。一年生…かな?


 「…だ……」


 なんか、驚きと憧れの入り混じった目で僕を見てるんですけど…でも、言葉遣いは生意気そうだなぁ…


 「こんにちは。えっと…?」


 「越前リョーマっス……」


 「こんにちは、越前君。」


 わらわらと人が集まる。

 テニス部レギュラーが大集合なのだろうか。

 そのあとには部長や、ほかのレギュラーの人もわらわらと集まってきた。


 「…跡部に頼まれたのか…大変だな…君も。」


 同情されてしまった…


 「まあ、仕方ないといえば仕方ないんですよ。今日一日よろしくお願いします。」


 「ああ。」


 「あれ、でもさ、って正式入部してないんじゃなかったの?」


 「ええと…跡部景吾が代理で入部届けを提出して、受理していたそうですよ。」


 あははっと、困ったように笑う。


 「なるほどねぇ…」


 「彼には逆らえませんね。養ってもらってる身ですし。」


 「…さんも大変なんですねぇ…」



 お昼ごはんが進まない。

 みんながしゃべりかけてくるから、それに応対している。

 それだけで時間が過ぎていく。

 でも、この人たちは教室にいる人たちよりも一緒にいて心地が良い。

 だから、話をしていく。




















 まずは、お昼休み。


 午後の授業が終われば、部活だ。

 何をするのかわからないけど、できるだけの情報を仕入れて来いって…言われてますからね。

 彼らは今日は部活をそんなにしないでしょう。

 これは、一種のスパイ作戦ですよね…

 とりあえず、一日、無事に済んでくれることを祈りますよ……


















































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 一日だけ、青学へ。
 後編は部活の内容になると思います。
 乾が氷帝に行くってこと自体笑えるんですけどね(爆)
 たまにはこんなのもいいかなぁ……

































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