跡部景吾は今日、用事があるからといって出かけていった。

 見た目存在感のある、でも、跡部景吾の後ろにいるから存在感が薄い子を連れて。


 ……名前なんだったっけなぁ。


 で、この間の事件もあったことだから、僕は学校に残された。

 そりゃ、また誘拐されちゃ困りますからね……

 跡部景吾は僕に念を押した。


 「部活が終わるまでには帰ってくるから、部活でも見てろ。迎えに来るまで帰るんじゃねーぞ?」


 …そんなこと言われなくても承知してる…


 あの事件以来、人を疑うことを覚えた。

 他人に会うと少し身を引いてしまうところがある。

 一人になることが怖くなったし、必ず誰かと一緒にいることにしている。


 ……僕の名前が、日本に広がるのは時間の問題だ。

 今よりもさらに危険にさらされることが多くなるはずだ。



 「なに考え込んでるん?」


 考えていたら不思議な言葉が聞こえた。

 ん?って顔を上げたら、忍足君の顔があった。


 「なんでもないですよ。」 


 「ほんなら、ええけど…今日は一人なん?跡部と一緒にいかなかったんか?」


 苦笑した。

 意外やな〜、とつぶやく彼に苦笑した。

 僕がいつも跡部景吾と一緒にいるのは事実だけれど、ここまで一人で部活に出ているのは意外なことなんだろうか…?


 「今日は帰らへんの?いつも途中で抜けるやんか。」


 「……ん〜…外出禁止の身なもので。跡部景吾が迎えに来るまで帰っちゃいけないんですよ。」


 「跡部も過保護やなぁ…」


 「本当に。」


 あの事件のことは口外しないことに決めているから、僕の立場は少しつらい。

 普段のように部活を途中で抜けたい気持ちもあるのだが、恐怖もある。

 でも、それを口にしてしまっては事件のことも話さなくてはならなくなるから……

 つらい。



 「…も、テニスできるんな?」


 「ええ、まあ。」


 「せやったら、俺とやらへん?今日は跡部もおらんから。」


 「……そうですねぇ……」


















































 いつも跡部と一緒におるやつ、

 部活には顔出すけれど、正式に入部したわけやあらへんと彼は言っていた。

 普段は大体球出しとか、アップの手伝いとかしてるんやけど…ちゃんとボールを打ったところは見たことがないし、見せてくれへん。


 跡部の家に居候しているらしいけど…実態のつかめない不思議なやつや。

 黒い髪に黒い瞳。でも肌は白人のように白い。

 祖父が日本人のクォーターだから…

 とか、前に聞いた気がするんけど…ようわからんやつや。


 だから、なんとなく知りたくなってもうた。

 どんなやつか。

 なんで氷帝の帝王と呼ばれる跡部がこれだけ過保護になって守るのか。

 知りたくなった。


 卑怯…といわれればそれまでかもしれないけれど…

 跡部がいないなんて、こんなチャンス滅多にないやろ?

 ちゃんとボールを打ち返すところを見てみたいねん。

 氷帝テニス部にやってくるやつがどれほどの実力なのか…





 「ほい、こっちこっち。」


 なんとなく誘い出して、俺とはコートにたった。

 周りのやつらはすごいびっくりしてた。

 普段コートにでえへんやから。

 そんでもって、俺が相手すんのにも驚いたらしい。



 「いくで?」


 「どうぞ。」



 笑顔の似合うやつ。

 手加減せえへんよ。



















































 コートにボールの打ち合いの音が響く。





















































 「…大丈夫ですか?」


 忍足に声をかけたのはだった。

 忍足は疲れ果てて座っていた。は余裕の表情でその隣に座っていた。


 「負けた…


 「………」


 「負けたいうても、跡部に負けるような感じやないで?ほんま、どこでテニス習ったん?あんな軽やかなプレー見たことないで?」


 「…?」


 跡部がをコートでプレーさせない理由がわかった気がした。

 強すぎるのだ。

 跡部をもしのぐその強さは氷帝テニス部員たちにショックを与える。

 それは忍足も例外ではなかった。


 「……まるで試合にならへんかったやん。俺、に踊らされててめっちゃカッコ悪…


 「そんなに落ち込まないでくださいよ。ただの偶然ですから。」


 そんなことを言うを尊敬もするし、少し憎たらしく思える。


 実力を発揮していただろうか。

 三分の二?二分の一?

 どちらにせよ100%の力を出し切って戦っていたとは思えない。


 「…ひぃさん、めちゃうまいやんか。」


 「……?」


 腰掛けていた忍足の頭が隣に座っているひざに乗る。


 「…………」


 「くやしいわぁ…ほんま、悔しい……」


 「ん〜……」


 すがすがしい笑顔のの顔を下から見上げるようになる。

 が見下ろしてきて…

 目が合って…

 二人は同時に噴出した。


 「やだなぁ。偶然ですよ。」


 「…そんなことあらへんわ…強すぎやし……もうちょっとこうさせといて…


 目をつぶって試合の流れを思い出す。

 一度も点を取れなかった。

 打ったサーブは必ず打ち返される。


 悔しいけれど、認めなければいけない実力の差。










 「跡部が過保護になるのもわかるわ…こらあかん。」


 「?」


 「正式に部員登録したらええのに。まあ、してくれなくてレギュラーの座を奪われないんはそれでもええんやけど…なんか悔しいわぁ…」


 正式部員でもないのにまけてしもた…

 忍足のつぶやきとの笑い声が混じる。




















































 この試合の様子を他のテニス部員が見ていて、思わず握っていたラケットを取り落としてしまったことは二人の知らぬところであった。



















































〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 忍足でした。
 後で忍足との試合のことを他部員から聞いた跡部はを怒ります(爆)
 でも軽く流してしまうのがです(爆)






















































アクセス解析 SEO/SEO対策