聞きなれぬ携帯の着信音。

 ほとんどの着信は跡部景吾なのだが、彼がかけてきたときに鳴る着信音ではない。

 画面を見て、番号を確認して、少し安心した。

 ボタンを押して、通話状態にする。



 「Hello,brother. 」







































 の部屋に入ったら、あいつは通話中だった。

 会話の邪魔をしないよう静かに傍にあったソファーに腰掛けた。






 英語でしゃべっているのを見ると、相手は祖国の家族らしい。時々笑ったり驚いたり、顔を紅くしたり…忙しいやつだ。



 前回、青学のやつがに探りを入れた。

 は無防備だから、ぺらぺらと自分のことをしゃべりやがった。



 仕方ないから止めた。携帯も、登録してある番号以外からは着信しないよう、そして指定した番号以外には電話できないように変更した。




 とりあえず、それなら安心だ。




 もっぱらあいつの携帯に電話するのは俺様だけだが、たまにこうやって家族からの電話が来ることもある。




 そんな時、すごく楽しそうに話すに少し複雑な気持ちだったりする。





 俺様の家に満足しない、とは言わせない。

 あいつの祖国の屋敷と比べたって、見劣りがしないくらい、日本の中で言えば屈指の豪邸に住んでいる。


 …まあ、親の実力だが。




 ただ、あいつがたまにみせる寂しげな表情はどうしたものかと思う。

 ホームシックなのかもしれないが。

 少し気になる。






 余計、こうやって家族と電話しているときのまぶしい笑顔を見ると…な。





 「…Yes, ……Oh……No…yes…ok……」





 うなずく表現が多い。

 相手が何を言っているのかこっちは分からないから、内容が分かるわけじゃない。




 いつも、の家族からの電話のときはそうだ。

 どんな内容なのかは知らないが、それが万一別のやつに漏れると大変な内容らしく、決しての口から内容が飛び出すことはない。

 その代わり、うなずいたり、時には内容を伏せた上で、比喩を使った表現で何かを相手に伝えている。





 さすがの徹底振りである。




















 通話が終わる。

 携帯を閉じる音がして、が笑顔で俺を見た。


 「終わったのか?」


 「ええ。」


 「誰からだ?」


 「兄からです。兄の通う学校が外国の文化を学ぶというテーマで日本に旅行に来るらしいのです。

 それで、ホテルにいる時間は自由時間なので、よかったら会わないか、といわれたんですよ。」


 は本当に笑顔だった。

 うれしそうに笑って、文字通り笑みがこぼれていた。

 まあ、いい。


 「会いたい…か?」


 「当たり前じゃないですか。電話じゃあ声は聞けても顔が見えないんですよ?やっぱり、会って話したいです。」


 「……そうか。」


 「明日の午後6時に、エルリックホテルの最上階、夜景の綺麗な窓側の席を予約してくれたそうですよ。跡部景吾も一緒にどうぞって。」


 「………」


 「僕の兄に会うのは嫌ですか?」




 すぐに返事をしなかっただけで、こっちの顔を覗き込んで、今までの笑顔はどこへやら、しゅんとうなだれてこっちを見る。

 その顔が、なんだか不思議だ。





 「そうじゃねぇ。むしろ、興味あるぜ。の兄ならな。だがな、急すぎないか、明日なんて。」


 「忙しくて連絡するのが遅くなってしまった、って言ってました。明日、特に用事がなければ一緒に行きましょうよ。」


 「ああ、そうするか。」




 うなずいた。

 確かに興味がある。

 の兄には。

 には二人の兄がいるらしいが、話の内容からすると、とまだ年の近めな兄のほうだろう。


 「わくわくしますね。Brother に会えるなんて。素敵な方ですよ。僕も尊敬しています。」


 は普段身に着けて持ち歩いているロケットを取り出して、明日会う兄の写真を見せてくれた。


 とは違った金髪碧眼の青年。

 だが、その笑顔はどこかに似ている。

 鋭い瞳に、その自信にあふれた見た目から、頭の切れる存在であることがうかがえる。


 「綺麗な方でしょう?髪と瞳は母上似なんですって。僕は祖父の血を受け継いでいるみたいですが。すごく頭のいい人なんですよ。」


 家族の話をするとき、は必ず笑っていて、幸せそうである。





 ……少し、縛りすぎたか。

 もう少し、自由に生活させてやるべきか?






 明日は…偵察しよう。

 今まで、どんな風にしてこの天才と付き合ってきたのか、の兄を観察してくるとしようか。






















































 翌日午後5時半。

 僕たちは車に乗り込んで、エルリックホテルに向かった。

 跡部景吾は、エルリックホテルといえば高級ホテルで有名だ、といっていた。

 それなりのお偉いさんが寝泊りするホテルだそうだ。


 それで、僕たちは見た目を整えてきた。


 おそらく兄様も、きっとちゃんとした服装で待っていてくれるのだろう。






 約束の時間ぴったりにホテルのレストランに入った。




 「二名様でしょうか?ご招待券はお持ちですか?」


 「ええと………」


 僕が口ごもると、跡部景吾が手助けしてくれた。


 「連れが着ているはずだが。」


 「あ、はい。お連れ様でしたら窓側の席でお待ちでございます。案内させていただきます。」



 英語なら慣れてるんですけど…ね。

 日本語での礼儀って言うのは難しいですね。跡部景吾と一緒にいて本当に良かったと思いました。










 席に案内された。

 すぐ目の前に見えたのは、本当に久しぶりな兄様の笑顔。


 なんだかとってもうれしくなって、笑みがこぼれた。



















































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 前編です(爆)
 家族と話をするのもいいかなぁと思いまして、一人連れてきました。
 とは年が…8歳ほど離れた兄様でございます(笑)
 ちなみにもう一人の兄様とは12歳年が離れています(爆)

 そんなに年の離れた弟だと、はすごく可愛がられた生活してたんでしょうねぇ…
















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