日本最大のオーケストラ楽団とあって、警備も厳重だった。

 仕方がないので、警報装置を少し細工して、鳴らした。

 思ったとおり、警備員は警報装置の特殊な音をキャッチして現場に走っていった。


 …


 警備が手薄になったわけだ。

 すっと扉をすり抜けて、控え室へと向かう。

 偉いやつは個室になっているはずだし、幸いにも、楽屋には名前が貼られていた。


 廊下を右に曲がって、次に左に曲がって直進を続けた。


 ………見つけた………


 そこは一番奥の部屋。

 冷たい雰囲気のする部屋。

 警備員が戻ってくるまで時間は少ししかない。


 いくら人並み以上とはいえ中学生の子供に大人を倒す力があるだろうか。

 一瞬、跡部らしくなく弱音を吐きかけたが、やめた。


















































 ドカッ、バシッ、ドンッ………バタンッ……




















































 扉が不思議な音を立てて開いた。

 拘束されている僕の体に振動が響いていた。

 この男の側近であるあの青年はドアの傍にいたものだから、いきなり開いたドアにはさまれて意識を失っていた。


 …あ…


 警察じゃなくて。

 警備員でもなくて。






















 そこにいたのは跡部景吾



























 一人で乗り込んでくるなんて…

 いつも冷静な跡部景吾にしては軽薄な行動じゃないか?

 相手がどんな武器を持っているか知れないのに。




 「おい、こら、歩山!お前、この前の事件だけじゃたらねぇのかよ。人質なんて結構なことしてくれんじゃねーか。」



 「いいところに来たね。ちょうどいい。君と交渉がしたい。」


 「はっ?!聞く耳もたねぇな。を返してもらうぜ。」


 「…君は自分の置かれている状況がよくわかっていないようだな。」



 歩山…と呼ばれた男が僕に銃口を向ける。

 …といっても距離が遠い。

 部屋の端から、部屋の端まで。

 ……どう考えても、銃の扱いに慣れてない人の構え方。


 ナイフをもたれたら怖いけれど、銃なら、怖くもない。

 …いや、銃のほうが殺傷力はあるから怖いのかもしれないけれど、あの小さな銃じゃ、命中させるのにかなりの訓練をつまないと無理だ。

 手で固定させなければ弾道は狙った道のりをそれる。


 …………


 跡部景吾の顔が引きつっていた。

 そりゃ…たぶん、日本人の跡部景吾にしてみれば銃のほうが怖いのでしょう。

 殺傷力は強い。

 流れ弾が当たったら大変だ。



 とりあえず、僕の口を止めているガムテープと手と足を縛っているロープが外れれば何とかなるんですけどね。

 いすに縛り付けられても困るし。



 「…ちっ…卑怯なまねするな、歩山。一体何が望みなんだ。」



 跡部景吾が…そういった。


 …僕のために何かする必要はない。


 チラッと彼のほうを見たら何か光るものがあった。

 さっきの青年が持っていたはずのサバイバルナイフ。

 …なるほどね。









 「ふむ。」





 条件を考え込む歩山。



 「…まず、の身の安全の確認をさせてもらうぜ。」 



 そういって近づいて、彼は僕の後ろに縛られた手にナイフを握らせた。



 「……それ以上近づくな。」



 その後、そういわれて跡部景吾がしぶしぶ後ろに下がる。

 そのとき、しきりに足元を気にしていた。何か気になることでもあるのだろうか……?







 ナイフの使い方…あまりよく知らないんですけど……

 とりあえず、僕の手を縛っていたロープを切って、手を自由にした。

 相手がこっちに集中せず、跡部景吾と交渉をしているのを確認して足のロープも切った。

 それからガムテープをはずす。


 …少ししびれていたけれど、手や足が動かないわけじゃなかった。




 「…どこまでも卑怯なやつだ。」


 「ほしいものを手に入れるのに手段は選ばないよ。」




 交渉が成立したらしい。

 じゃあ、の縄を解かせてもらう…

 と、彼が言った時、僕はさっきのサバイバルナイフをもてあそんでいたんだけれど…手が滑って投げてしまった。


 なかなか飛距離がでて…相手のこめかみすれすれに刺さった。


 「ひっ…このやろう!!」


 「って、おい。お前何してんだよ?!


 「…手が滑ったんですよ。別にあんな交渉しなくたって……」


 「お前を助けるために…あれじゃ、あいての感情逆撫でじゃねーか。」


 銃声がした。


















































 跡部景吾の体が一瞬硬直した。























































 「…大丈夫ですよ。あんな銃扱いの素人に使える代物じゃありません、あの銃は。」



 「……そういう問題じゃねぇ…」


 くすくす笑ってたの耳に、跡部のため息が聞こえる。



 おい。

 お前は何で銃をこわがらねぇ?

 ……ああ、銃社会の出身か。


 「…それより、さっきの銃声聞いて警備員の足音が…」


 「ああ。そうだな。はやいとこにげるか。」


 「そうはいかねぇ!お前たちは…」



 「うるさいよ。」




 の声が歩山の耳に入ったが、の姿はなかった。

 ついでに、跡部の姿もなかった。


 「…どこ消えやがった?!」


 そういう声が聞こえたけれど、むなしく部屋に響くだけ。

 そのうちばたばた足音が聞こえて、警備員が入ってきた。


 「歩山さん、銃声が聞こえたのですが何か……って…おい!拘束しろ!!」


 銃を持ったまま放心状態の歩山を警備員が拘束した。

 壁にそれて当たった銃弾の位置から見て、歩山が立っているところから打ったのに間違いはないだろう。

 ………

 覚えていろ…

 そう、歩山がつぶやくのが警備員の耳に届いた。


















































 一方、跡部とは外に出ていた。

 跡部が偶然見つけた足元の扉が、火災時の緊急避難通路だったのだ。



 「…あれは…恐ろしい体験でした。」


 「……お前、どこで捕まったんだ?」


 「…さあ。」


 「こら。」


 「…親切な青年に声かけられてついていったら……」


 「知らない人にはついていくなって教わらなかったのか?まるで子供だな。」


 「…みんな親切な人に見えるんです、僕の目には。」


 「…馬鹿。」


 「………」



 まあ、今回は少し馬鹿だった…と、そう思ったであった。

































































 「会ってきた。」


 「そうですか。」


 「今回の件は黙秘を通し続けるってさ。」


 「へぇ…」


 「………」


 「…跡部景吾が黙秘をするように何かいったんでしょう?」


 「…まあ、それなりの対処はさせてもらったけどよ。」


 「へぇ……」



 「……」


 「…………」


 「…なんか、食えよ。」


 「いりません。」


 「くわねーとなおらねぇぞ。」


 「…しばらく外に出ませんからいいですよ。」


 「……お前らしくねぇ。」


 「あんなことがあったのに普段どおり振舞えって言うほうが変です。」




 の精神的ショックは大きく、人を疑うことを覚えた事件だった。





















































〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 おっしまい(爆)
 長かった。
 誘拐事件w
 結局跡部の話になっちゃったなぁ…
 跡部は世話焼き係だから仕方ないといえば仕方ないんだけど(爆)













































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