「おい、。これ、配っとけよ。」


 いつものように突然部屋に入ってきた跡部景吾は三十枚近くある紙の束を僕に渡した。

 一枚手にとって読んだら、難しい漢字がいっぱいでよくわからないところもあったけど、どうやらオーケストラのチケットらしかった。


 「…これ、何です?」


 「オーケストラのチケットだよ。見たらわかるだろ?」


 「それはわかりますよ。そうじゃなくて、何で僕が配るんですか?三十枚近くあるじゃないですか。」


 「有名なオーケストラだぜ?なかなか手に入るもんじゃねぇ。そこの御偉方といろいろあってな。そうしたらそのチケットをそんなにくれやがった。」


 跡部景吾がいろいろあった…という場合は、大体法律に関わるような重大なことを相手方が起こしていたということですね。

 うまくことを終えた見返りにもらったのでしょう……





 …それにしたって量が多い。


 「…僕一人で配るんですか。」


 「当たり前だろ。」


 「…跡部景吾も手伝って……」


 「あ?


 「…がんばります。



 跡部景吾は時々怖い。

 口調は悪いし、人使いは荒いし、でも、なんとなく憎めない。

 僕は手にした三十枚のチケットを見て考え込んだ。一体誰に配ればいいだろう?


 …氷帝のテニス部全員に配るには数が足りなすぎます。

 はぁ……


 「…わかりました。だから、明日は僕部活に出ませんよ?配ってきます。」



 「…あ?どこに配りに行くんだよ?」



 「……青学。」



 「………」



 「だって、知ってる人って言ったら青学の人か、氷帝の人くらいしかいないんですから。氷帝のテニス部全員に配るには足りなすぎますし…」



 跡部景吾は黙ってた。

 ずっと黙ってた。むかついてるみたいだ。足がいらいらしていた。

 この人は…僕が氷帝の人以外に会うことを快く思っていない。

 確かに、情報が漏れたら僕としても、氷帝としても困るのですけど…


 「ちっ……その代わり、すぐ帰ってこい……あ、お前方向音痴なのに青学までいけるのか?」


 すごく心配な顔された。

 …確かに方向音痴ですけどね。それがばれちゃいましたけどね。

 そんな風に子ども扱いしなくたって…


















































 でも翌日、僕は一人でちゃんと青学までたどり着いた。

 ほら、方向音痴じゃないって証明に……

 ……いや、ここにつくまでに何人の親切な方にお世話になったのか……それは言わないでおこう。

 まあ、無事に着いたんで……いいじゃないですか。



 なかなか、正門をくぐるのは勇気がいることだった。

 氷帝の制服のままで青学に足を踏み入れるのは…どうかと思う。

 ちょうど部活が始まるくらいの時刻だったのですが…どうしても中に入れなくて正門の前でうろうろしてた。


 そしたら、優しい生徒の一人が僕をテニス部まで案内してくれた。

 …誰だったんだろう、あの人。


























 「あっれ〜…じゃん。どーしたの?」


 「あ、こんにちは〜。」


 手塚君…だったかな?

 部長さんに話をしたら部室に案内してくれた。

 中にはレギュラー陣がいっぱいいて、うようよしてた。

 とりあえず、跡部景吾に言われたとおりチケットを取り出していう。


 「…皆さん、クラシックはお好きですか?」


 「……お菓子のことっスか?」


 ………

 ……興味ないみたいですね。


 「…日本の有名オーケストラ楽団のチケットがたくさん手に入ったので、もしよろしければ見に行かれないかなぁと思って…」


 とりあえず、配る。

 配っておけば来なくても文句は言えないし。


 「ふ〜ん……」


 「へぇ。興味あるな。はいくのかい?」


 「ええ。僕もチケットもらったんで行く予定ですよ。」


 「たのしい?」


 「…さあ。」


 「…いい音色だろうなぁ…」


 「まあ、よろしければでいいんですよ。僕はチケットをもらってもらうのが目的だったわけだし…」


 のほほんと微笑んだ。


 「行く?」


 「部活は休みだよね。」


 「会場も割りと近いね。」


 「…まあ、音楽も悪くはないな。」


 「……じゃあ、決まりね。あ、そうだ。もしもう何枚かもう少し僕にくれないかい?きっと姉さんたちも行きたいと思うんだ。」


 うれしい。

 これでチケット完売…

 不二君に残りのチケットを渡すと、僕は心の中でにっこりと微笑んだ。


 「それじゃ、コンサートの日に会いましょうね。」


 笑顔で手を振って青学を後にした。
















 その後、たくさんの人に多大なるご迷惑をおかけしながら僕は跡部邸に帰った。

























































































 会場は、大勢の人でにぎわっていた。

 と跡部は早めに会場入りして席の確認をした。


 「…べっつに見に来なくたって…」


 「いいじゃないですか。僕がハープを弾くときは文句言わないでしょう?」


 「……」


 ニコニコと微笑むになんとなく言葉を返せない跡部。





 そのうち、青学のメンバーたちがやってきた。

 跡部たちの席からは遠く離れていたので、彼らは跡部たちに気がつかなかった。

 だが、のほうが青学メンバーに気がつき、跡部の隣の席から立ち上がって彼らのほうに赴いた。








 「こんにちは。」


 「あ、。」


 「、席どこかにゃ?一緒じゃなかったな、残念だなぁ…」


 「……っス…」


 「なかなかいいホールだね。」













 しばらく話をしたは開演前に一度外の空気を吸っておこうと思って外に出た。



 そして会場内で迷った。



 どこにいるのかわからないのである。

 会場の中なのだが、ホールがたくさんありすぎて、どこのホールでやるのかわからないのである。


 「…困りました…後少しで始まるというのに…」


 跡部にもらった時計に目をやれば、後一時間で開演となるところだった。

 時間としてはかなりあるのだろうが……

 …方向音痴のとしては一時間以内にこの広いホール内から大ホールを探すのは難しいだろう。





















































 「……確か、そう名乗るやつが着ているはずだ。」


 「……?」


 「ハープの代理になる。急にハープが休むなんて知らなかったからな。そいつを見つけてハープを弾かせればいいだろ。」


 「なるほど。」


 「それからな、演奏がすべて終わったら…を拘束しろ。抵抗したら縛り上げていい。殺しはするな。大切な人質だ。」



 「…それは…例の件に関する……?」


 「当たり前だ。胸くそ悪い。跡部家の子息め。こっちが後がないということを知っていて……」


 こほん、とせきが聞こえた。


 「……まあいい。を捕まえればこっちが有利になる。」


 しくじるなよ、 と、そいつは言った。





















































 開演まで後五十分。

 まだ、うろうろしていたに声をかける人がいた。


 「…君、どうしたの?」


 優しそうな青年だった。よりもがっしりとした体格をしていた。


 「……迷ってしまって…」


 「おや、それは大変だ…名前は?」


 「です。」


 「……!


 「?」


 「ああ、いや…なんでもないよ。大ホールだったね。案内してあげるよ。」


 「ありがとうございます。」


 は笑顔でそういった。

 何の心配もなしに笑顔で青年の後についていく。





 舞台の裏手に差し掛かったとき、青年がのほうを振り返って、何か言った気がした。

 けれど、は聞き取ることができずにその場に倒れこんだ。

 …クロロホルムを染み込ませたガーゼがの口と鼻をふさいでいた。

 青年が、ごめんね、と、黒く微笑んでいた。






































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 ミステリアス(爆)
 今回は長くなりそうなので分けました。
 この後の展開は…どうなるのかなぁ…
 跡部が気疲れしそうな予感(爆)





































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