雨だった。

 しとしと…と振る長雨だった。

 朝からずっと降り続けていて、跡部景吾の率いるテニス部も今日は練習がなかった。

 跡部景吾は用事があって遅くなるから先に帰ってくれ…と、僕に傘を渡してそういった。

 たまには一人で帰るのもいいかな、と思い、傘を差して帰途についた。











 途中、普段は跡部景吾と一緒に車で送ってもらうためあまり気がつかない空き地に差し掛かったとき、


 な〜ぅ……


 寂しそうな泣き声が聞こえて、ふと、立ち止まった。



 猫だった。

 それも、まだ小さな子猫。

 僕を見てよってくるところを見ると、野良猫ではないらしい。

 ……どの国にも理不尽な人間がいるものだ。おおかた、飼えなくなった誰かが捨てていったのだろう。


 そっと抱き上げて、ハンカチで体を拭いてやった。

 この空き地にはあいにく雨から身を守ってくれるようなものがなくて、朝からぬれていたのだろう。体中びっしょりだった。

 そのうちハンカチもぐっしょりとぬれてきたので、鞄から、部活で使う予定だったタオルを取り出して、猫を包んであげた。


 「…君、おなかすいてるんじゃない?」


 弱々しくなく猫が、日本に着たばかりの自分と重なった。

 行く当てもなく、空港内で困っていた僕に、親切に声をかけてくれた老夫婦がいた。


 …なんとなく、老夫婦の気持ちがわかった気がした。


 「……はい、これあげるよ。」


 僕が鞄から取り出したのは牛乳とパン。

 昼食のときに、忍足君という不思議な言葉を話す少年からもらったものだった。


 「…、もっと食べへんと、体もたんよ?」


 とか、言われて、強制的にもらうことになったものだ。

 …おなかがすいているわけでもなく、もらったこと自体忘れていたが、思わぬところで役に立った。


 パンを小さくちぎって牛乳に浸して、それを猫の口元に持っていった。

 猫は一生懸命パンを食べ、僕の手についた牛乳をぺろぺろと舐めていて、とてもくすぐったかった。



 「…一緒につれて帰ってあげたいけど、跡部景吾がなんていうかわからないから…僕、跡部景吾にすごくお世話になってるから……」


 寂しそうに猫が鳴く。

 なんとなく、そのままおいて帰ることができない状態になってしまった。


 「ねぇ、雨がやむまでここにいてあげようか…」



















































 予定よりも帰宅時刻が大幅に遅れた跡部は、迎えに来た車の中で家に電話をしていた。


 「なっ?!がまだ帰ってないだと?!」


 『はい、様はまだお帰りになっておりませんが…?』


 ちっ、と、舌をならすと乱暴に通話を終了させた。

 まったく、どこに行ってるんだよ、あいつは……と、心の中で悪態をつく。

 だが、跡部は知っていた。

 ステイ先が豪邸という理由で三ヶ月も姿をくらましただけれども。

 気分によってどこかにふらっと行ってしまうだけれども。

 こんな雨の日に外に出るほど間抜けではないってことを。







 何気なく外を見たら、普段何気なく通り過ぎている空き地に誰かが立っているのが見えた。


 「おい、停めろ。」


 すでに暗くなった外に、傘を差して、立ち止まっている人物に駆け寄った。



 !!」


 びくっと相手の体が震えたのがわかった。

 それから、少年が振り向いた。

 傘を差してはいるものの、体は雨に濡れていた。


 「お前…こんなところで何やってんだよ?!一体何時間ここにいたんだ?風邪ひくだろ!おまけに傘持ってるくせに体中びっしょりじゃないか!」


 「…跡部景吾…?」


 跡部の顔を確認した少年は唇に人差し指を当てて、静かに、といった。


 「アーン?」


 の腕の中にはいつの間にか安心しきった様子で眠る猫の姿。

 猫の体に雨がかからないようになっていたため、が見つけたときにずぶぬれだった猫の体はすっかり乾いていた。


 「…お前、猫のためにずっとここにいたのか?」


 「だって、跡部景吾…ずぶぬれでここにいたんだ、この猫。助けてくださいって言う感じで僕に近寄ってきて……助けないわけにはいかないでしょう?」














 雨が上がった…


 「…馬鹿だろ、お前。」



 「さあ。…あ、ほら、跡部景吾がうるさいから起きちゃったじゃないですか。」


 眠って体力も回復したのであろう。

 猫は、の手からぴょんと飛び出すと、地面に降りて満足そうに伸びをして…それから、まるでに感謝するかのように鳴いた。


 「今度はどこかいいおうちが見つかるといいね。」


 笑顔で手を振ると、猫はぬれた夜道を歩いていった。



 「……で、お前はどうするつもりだ?」


 「…なにがですか?」


 の体はびっしょりだった。

 このままでは風邪をひいてしまうであろう。


 「おや…自分のことなんて、まったく考えていませんでした。」


 ニコニコと微笑んだ。

 本当に、自分のことなどまったく気にしていなかったようだ。


 「馬鹿だろ。」


 「ひどい言われようですね…」


 「早く来いよ。お前そのままじゃ風邪ひくだろ。」


 「…………」


 不意に、跡部はの手を乱暴に握って、待たせている車のほうへと駆けた。

 の手は思った以上に冷たくて、跡部のほうが驚いた。


 「…おい、急いで戻れ!」


 車にを押し込んで、自分も乗って……



 「跡部景吾……どうかしました?」


 「お前の優しさに呆れたんだよ、……」



 本当に優しくて…馬鹿なやつ…

 跡部が一人苦笑していた……












































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 雨の日のネコさん(笑)
 は優しいから放っておけないとおもうなぁ……
 跡部だったら気がつきもしないかな?(爆)車だし……

























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