唖然としないものなんて、誰もいなかっただろう。

 あの掲示を見て、驚かないやつがいたら、俺は一日中人の姿で生活してやってもいいと思った。


 …それほどに、あの掲示は驚くべきものであった。






 『アルバス・ダンブルドア ホグワーツマ法魔術学校長主催、仮装民族衣装パーティーのお知らせ。』


 出だしはこうだった。

 星がちかちか瞬く、ひときわ大きなポスターにでかでかと書かれていた。

 掲示された日の朝には談話室はその話で持ちきりだった。


 「…仮想民族衣装パーティー……」


 「、これは夢だといってくれ。」


 「……はい、つねってあげる。


 「…………………痛い。


 「じゃあ、現実だね。」


 が、盛大にため息をついた。


 「…イギリス出身の子は、あとでくじ引きがあるみたいだよ?あと、ここに連絡される子がいるみたいだね。

 ハーフのことかかな。」


 はのほほんとそんなことをつぶやいていたけれど、

 あの校長主催のパーティー、それも仮装民族衣装パーティーなんて…すごいものだと思う。


 なんせ、校長といったら、いつもきらびやかでとっても似合わない衣装を着ているんだから。

 たまに金ぴかだったり、宝石が体中にちりばめられていたりするわけで。

 出来ることなら、係わり合いになりたくないファッションセンスの人である。

 ……魔法使いとしては超一流で、も尊敬はしているらしいけれど、服装のセンスだけはいただけない。


 「…ということは、僕はきっとくじ引きだね。は?」


 「どうなんだろう……くじ引きのほうに回るかもしれないし、

 母上がいろいろな服を持っているからここに連絡される側かもしれないな。」


 二人同時に大きくため息をついた。


 それから、朝食のために談話室から出て、大広間へと向かった。


 …まさか、俺まで仮装はしないよな……

 少しいやな予感がしたが、人の姿になるのはいやなので、おとなしくの後ろについていった。


















































 案の定、食事のときにくじが回ってきた。

 は、くじを引く代わりにふくろうが飛んできて手紙を落としていった。

 ……は、ここに連絡される側だったわけだ。


 くじは、番号がついているだけ。

 当日まで、どんな衣装を着るのか内緒らしい。


 ちなみに、の番号は『101』だった。




















































 パーティーは全員の衣装がそろった日だった。

 イリアに手紙を出したのふくろうは、すぐに綺麗にたたまれた不思議な衣装を持ってきた。

 昔、あいつが世界中を旅したときに手に入れた洋服らしい。しっかりと採寸してのサイズぴったりになっていた。


 「…それ、なんていう服なんだ?」


 「衣冠っていうらしい。」


 「???」


 「ええと…どっかの島国の昔々の衣装だってさ。母上も良くこんな服を持っていたなぁ…」


 が着ているのは、外国製の不思議な生地で作られた服。

 ローブみたいに袖が長いんだけど、重ね着をたくさんしている。

 上からかぶって着る洋服じゃなくて、袖を通して着る服だったので、着るのが大変だった。

 (俺も慣れない人の手でがんばった。)


 は髪の毛が短いからいわくことはしなかったけれど、黒くて長くてへんな帽子もあった。

 組み分け帽子よりよっぽどへんだ。

 それで、檜扇とかいう、なんじゃこりゃ、なものも手に持つらしい。

 ちゃんときたらそれなりに見れたけど、なかなか大変だった。

 島国の人は、こんなに大変な服を毎日着ていたのか……良かった、がイギリスに住んでいて……



 「は、普通…だね。」


 「ああ。」


 「変わってるところといえば…帽子と……長い箒くらい?」


 「そうだな。よかったよ。変な格好じゃなくて。」



 一方、が身につけているのは、いつものローブ。

 いつもと違うのは組み分け帽子みたいな、いかにも魔法使いって言う感じの帽子をかぶり、

 自分の身長よりもはるかに長い箒を手にしているところだけ。


 「…マグルの想像する魔法使いの姿。


 「ってなに?」


 「が、僕の服装のテーマらしい。服を借りたときに校長が言っていた。」


 「へぇ……」


 よかったじゃないか、とがいった。


 「校長が選ぶんだから、すごい変なのかと思ってたけど、そうでもないみたいだね。」


 「…まだ、わからないがな。」


 「とりあえず、大広間に行こうか。そろそろパーティーが始まるよ。」










 寮を出て、大広間に向かった。

 出発した時間が遅かったらしく、みんなもういなかった。

 廊下は静かで、生徒の多いホグワーツにしては不思議な空間だった。



 大広間に入ると生徒が集まっていた。

 笑顔の生徒もいれば、ぶっちょう面の生徒もいた。


 「……ね、あれ見てよ。ドラコが……」


 がこらえきれなくなって笑い出す。

 隣にいたもくすくすと声を立てて笑う。


 ……

 思わず、俺も噴出しそうになった。


 ドラコは仏頂面だった。

 ドラコが着ていたのは猫耳付フードの着ぐるみ。

 首に大きな鈴がついていて、手も猫の形をしている本格的な洋服だ。

 耳付フードをかぶっているから、顔を見てドラコだと分かるくらい。後姿じゃ分からない。

 それも、似合うから面白い。

 いつも生意気なドラコが、すごい幼く見えて傑作だった。


 ドラコの隣にいる二人も、ブタの着ぐるみと、サルの着ぐるみで、最高だった。

 はもう三分以上笑いが止まらない。

 でも、ほんと、似合ってる。

 猫の衣装を着たドラコが可愛くてしょうがなかった。

























 
 「〜!!」


 どたばたと走ってきた音。

 ひらひらと、レースのついたドレスをはためかせて、満面の笑みでに向かって走ってくるのはハーマイオニー。

 その後ろから、タキシードにシルクハットにステッキを持ったハリー。

 ……

 ……

 最後に、羽のはえたふくろうの着ぐるみを着たロン。



 が、笑いをこらえきれずにしゃがみこんで俺につかまってた。

 のおなかがひくひくなってた。


 「や。ハーマイオニーにハリーに…ロン。」


 もロンの姿を見て、噴出しそうになったのをなんとかこらえていた。


 「ハーマイオニー、その衣装よく似合ってるよ。」


 大きなピンクのリボンのついた白い帽子をかぶっているハーマイオニー。

 顔が、少し赤い。

 普段、黒いローブばっかりだけど、ハーマイオニーも女の子だった。綺麗だった。


 「ハリーは…なんか、紳士的になっちゃったね。」


 タキシードにシルクハットにステッキ。

 ちょっとサイズが合わないみたいで、タキシードをずるずる引きずってはいたけれど、見れないものではなかった。


 「…大変だったんだよ、この服を着るの。」


 「そうだろうねぇ。」


 で、と、がロンを見た。

 真っ赤な顔してから顔をそらそうとするロンに、満面の笑みを浮かべていた。


 「ロンは……ふくろう?」


 「…………………………うん。」


 「可愛いよ。」


 精一杯の褒め言葉だろう。

 だって、着ぐるみを着ているなんて、ドラコたちかロンくらいなんだから。

 似合ってはいるけれど、羽の部分がバサバサしていて邪魔そうだ。

 おまけに重そうだった。

 暑そうで、ロンは汗をかいていた。



 「は不思議な服を着ているのね。」


 「あ、うん。なんでも、衣冠といって、東国の島国に伝わる昔の人の正装だったらしいよ。母上が送ってくださった。」


 「そうなんだ。そういえば、さっきスコットランド出身の子が、やっぱり正装していたよ。

 チェック柄のスカートにバグパイプ…だったかな?」


 「へぇ……」





 そのとき、声が聞こえた。


 「やあ、ハリー、ハーマイオニー、それにロン。かくまってくれ。」


 やあ、と、やってきて話しかけたと思ったら、次にはかくまってくれ…そういったのはロンの兄のパーシーだった。

 パーシーの格好もすごかった。


 「こんにちは、パーシー……ええと…海賊船の船長?


 「ああ。くじで…な。それより、早く隠してくれ…」


 「誰から?」


 「…わかるだろう。うちの問題児だ。」


 向こうから、フレッドとジョージが追ってきていた。リー・ジョーダンとか言う、二人の友人も一緒だ。

 固目を隠し、サーベルを腰に挿した、海賊の格好をしている。



 あ〜、なるほど。


 と、三人は言って、ロンを先頭に、パーシーをかくまった。



 「おやおや。やあ、ロニー。君は空を飛ぶつもりかい?やあ、ハリー。よく似合っているよ。

 ところで、うちの船長を見かけなかったかい?」


 「船長?」


 「海賊船の船長さ。海賊ハットをかぶった男のこと。」


 「へぇ……」


 「じゃないか。今日は不思議な服を着ているなぁ。綺麗だよ。


 「ありがとう。でも、褒めても何にもでないよ。」


 せっかくパーシーを隠していたのに……

 途中まではうまくいった。

 気づかないで通り過ぎようとしたんだ。


 だけどさ。

 パーシーがへまをやった。転んだんだ。

 ロンの尻尾を踏みつけてね。

 それでばれた。


 「「船長!!」」


 「そこにいましたか、我らが船長。」


 「どうして任務中にどこかに行かれてしまうのですか、船長。」



 がっしりとパーシーの腕をつかんだ二人がリー・ジョーダンと共に、

 悲鳴を上げるパーシーをずるずると引きずっていった。

 双子にはかなわないものなんだと、思った。
































 それから、ドリンクを飲んだり、みんなで会話したりして、それなりに楽しいパーティーだった。


 …教職員を見るまでは。



 「……僕はもう帰りたい。」


 「どうかした?」


 「………」


 が無言で指をさした。

 そこには校長。

 奇妙奇天烈な服。黄金をちりばめたような服で、

 ところどころで超新星爆発のようなものが起きる、魔法の服だった。

 おまけに、普段はただ長いだけのひげが、今日は色とりどりのリボンで結ばれていた。

 なお、気持ち悪い。


 「…でもさ、校長は最初からそうだから、仕方ないとしても……あれは…かわいそうじゃない?」


 がおなかを抱えながら指をさした。

 その先には、マクゴガナル教授と、仏頂面のスネイプ教授。


 「……かわいそうに。」


 すでにあきれ果てたのつぶやきはざわめきに呑まれた。


 マクゴガナル教授は、プリンセス・エリザベス時代の貴族のドレスだ。

 エリザベスが着ていたような襟の大きなドレスを身に着けて渋い顔をしている。


 スネイプ教授は………これまたすごい。

 白いレースにフリルのネグリジェだった。

 黒髪が白い服に映える。

 仏頂面で尚笑える。




 「かわいそうだから、笑わないでおいてあげようか。」


 「…職員もくじ引きだったんだろうか…」


 「……あれは、校長の趣味かもね。」


 「……そうだな。」


















































 こうして、夜遅くまで続いた仮装民族衣装パーティーは幕を閉じた。

 良いくじを引いた人はそれなりに楽しめたと。

 くじ運が悪かった人には、見世物になってしまう最悪のパーティーだったと。

 そんな感じだった。

 なかなか、楽しかった。






 この日の夜、が、自室で大声で笑ったのは言うまでもなかった。











































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 こんなものでどうでしょうか。
 リクエスト第三弾。
 ハリポタメンバーで、校長が主催した仮装パーティーなるもの。
 民族衣装でした。

 イツキには日本の衣冠を身に着けてもらいました。
 黒髪に紅い瞳…衣冠を着たら、似合うのでしょうか。
 どうなんでしょう……

 個人的に気に入っているのは、ドラコの猫(爆)
 ドラコに猫の服を着せてみたかっただけですがね(笑)


 リクエスト、ありがとうございました!




















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