かすれた声が聞こえる。

 それは、人外の言葉。

 たぶん、やほかの人には聞こえていない言葉。

 聞こえたとしても、それは無声音にしかならなくて、言葉としては耳に届かないだろう。


 だから……危ないと思う。

 母上は言っていた。

 ホグワーツで真実を知ることになる…と。

 つまり、僕は何か知る。

 今年もホグワーツで事件が起こる。

 母上の言葉の意味をあの時しっかり理解していなかった自分に嫌気がさした。

 もっと前に気づいていたら、止められただろう。


 それを見逃した。僕の失態。


















































 『……来るんだ……』





















 ほら、また……

 と、がつぶやいてため息をついた。

 がため息をついたのは何度目だろう。

 ハグリッドのお茶会から帰ってきて、それからずっとだ。

 俺には何のことだかさっぱり分からなくて困惑する。

 は時々考え込むことがあるけれど、今回は長い。


 もうずっと水晶玉と魔法石をじっと見つめてはため息をつく。

 水晶玉には、赤い光とそこにはスリザリンの称号が映っているだけ。

 俺には何のことだかさっぱり分からない。

 が何を思っているのか、これだけ分からないともどかしい。


 「……僕の失態だ……」


 深いため息をつく。

 いつもの笑顔はどこへやら、の表情は深刻そうだった。

 ちょっと疲れているみたいでしょうがない。


 ひざの上に飛び乗って、その頬をぺろりとなめてみた。


 「……?」


 驚いたが、水晶玉から眼を離して俺を見る。

 今まで水晶を見るために集中していた魔力が途切れて、水晶玉は何も映さなくなる。


 …俺は、人の姿になってと意思の疎通をしたいとは思わない。

 何か特別なときはしょうがないかもしれないけれど…

 俺たちは、そんなことをしなくても分かり合えるはずだから……



 「…心配してくれているの?」


 ゆっくりと俺の背をなでながらが言う。

 の表情が優しくなる。普段の表情に戻る。


 俺は、の目を見るだけで幸せだ。

 優しさや、強さ、のすべてがわかる目。

 紅い輝きが美しい。


 「ね、。僕はもう少ししっかりしないといけないね。どうしていつもへまをするんだろう……」


 深いため息が耳に当たってくすぐったい。

 何でだろう。

 はどうしてこうやって悩むんだろう。


 「僕にはしなくてはいけないことがあったんだ。僕は知らなくてはいけないことがあるんだ。でも…それは………」


 悲しい顔は似合わない。

 俺はの頬をなめる。

 くすぐったいよ、と笑うのほうが綺麗だ。


 そのうち、俺の背に乗っかっていたニトがのそのそとおきだして、俺と一緒にをなめる。


 「…ニトまで?」


 くすくす笑って、ニトを抱き上げる

 俺はが抱き上げられるほど小さくない。けど、たまにニトがうらやましくなる。


 「…ニトはお腹がすいているみたいだね。はお昼を食べに大広間にいっちゃったんだ。だから…ミルクでいいかい?」


 座っていた椅子から立ち上がって、ニトのお皿にミルクを注ぐ。

 俺にもくれる。

 時々もらうミルクはほんのり甘くて、おいしかったりする。


 「ちゃんとしたご飯は、にもらってね。」


 よしよしと、ニトの背をなでながらそういう。


 な〜ぅとニトが鳴く。











 でも、やっぱりため息をつくのがだ。

 何を考えているのかは分からないけれど、もう少し話してくれてもいいかな……

 俺に理解できることではないのかもしれない。

 それとも、俺が動物の格好をしているから話しにくいのかもしれない。


 ………



 「………僕は、どうしたらいいんだろう。グリフィンドールのジニーは…すでに魔力に蝕まれている。今の僕の実力じゃもうとめることはできない。」


 もっと前に考えるべきだったんだ…

 と、がつぶやく。




 たまらなくなって俺は人の姿になった。


 急に変身したものだから、もニトも驚いた。



 「…どうしたの、。」



 ぴちゃぴちゃと、ニトがミルクをなめる音が聞こえてから、がいった。

 しゃべるのにはまだ慣れていないし、この体にも満足はいっていない。

 でも、が何を悩んでいるのか知りたかった。


 一人で抱え込むのは良くないだろう?



 「…何を悩んでいる…んだ?」


 使いにくい言葉で、短くそう聞いた。


 が無理に微笑んだ気がした。



 「は僕のこと、よく見てるんだね。」


 にっこり微笑まれて、俺の顔が紅潮するのがわかった。やっぱり、は笑っているほうが可愛い。



 「…トム・リドル…この名前はね、僕や母上にとってとっても重要な名前なんだ。」


 ジニーの友達の名前が口に出た。


 「今年もまたホグワーツに事件が起こる。だけどさ、僕はどうしたらいいと思う?

 事件の内容は分かっても、僕にはまだそれを阻止するだけの魔力がないんだ。」


 寂しそうだった。


 「もっと早くに気づくべきだったんだ。僕の失態なんだよ……。」


 苦しそうだった。


 「ホグワーツに事件が…?」


 「うん。去年も、ハリーたちを巻き込んだ事件が起きた。出来ることなら阻止したかったけれど、彼らの突発的な行動もあって阻止できなかった。

 そして今年も…」





















































 がそこまで話したときに、扉が開いてが入ってきた。

 笑顔を作る。


 「お帰り。ニトがお腹をすかせているみたいだったからミルクをあげたんだ。そろそろお昼ご飯の時間じゃない?」


 「ああ。大広間で食事の時間だったが、なぜは来なかったんだ?」


 「食事をする気分じゃなかったんだよ。それにハグリッドに糖蜜ヌガーももらったしね。」


 「…そうか。」


 がおもむろにニトを抱いて餌をやりに行く。


 ぼふん、と音を立てて普段の姿に戻った俺を、が優しくなでる。


 「は本当にいい子だね…」


 言葉を言う代わりに、の体に体をこすり付ける。

 俺の、服従の証。


 「もう少ししたら、にも何のことだか分かるよ。そうしたら僕は……」



 が苦笑していた。



 「ああ、。暴れ柳に突っ込んだ生徒の処罰が今夜行われるって知っていたか?」


 「ううん?そうなんだ。」


 「ちょうど帰りがけに、マクゴガナル教授が話しているのを聞いたんだ。フィルチと共に何かを磨いたり、

 ロックハートの手伝いをしたりするみたいだった。」


 「……お疲れ様…としか、いいようがないよ。」


 「まあね。悪いことをしたんだから、処罰を受けるのは当然のことだけれどね。」


 「あはは……」



 はたぶん、屋敷僕妖精のドビーを思い出したんじゃないかと、俺は思った。







 「さて、。スネイプ教授のところに行かないかい?闇の魔術に対する防衛術のテキストを借りたいんだ。」


 「そうだね。最近のロックハートの授業は目に余るし、スネイプ教授にちゃんと教えてもらいたいからね。」


 「………差し入れはなんにしようか?」


 「…そうだねぇ…教授の好みって微妙だよね。」


 「ああ。だが、教えてもらう以上、何か持っていかなくてはならないよ。」


 「うん。……じゃあ、おいしいコーヒーがあるからそれにしない?教授、コーヒーは嫌いじゃないと思うんだ。」


 「……渋い顔してるからね。」


 「…絶対ブラックだよね。」


 「ミルクとか砂糖とか入れる教授って思い浮かばない。


 二人で声を立てて笑って、それから部屋を出て教授の元に向かった。



 もちろん、俺の背中にはニトがいる。

 ニトが落ちないように気をつけながら、二人の後を追うのは俺だ。




 がきて、が少し元気になった。

 よかったな、って思う。




















































〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ちょっと番外編チックに。
 もいろいろと考えることがあります。
 でも、と一緒なら大丈夫なのですよ。

 は、の癒し係。
 の体毛はふわふわで毛並みが良くて、
 触ると癒されるのです!(爆)
























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